人と人の間を豊かにする実践 
                                           中村 尚司
 釈尊の教えの核心は、現代語的に表現すれば「関係が存在に先立つ」といえます。ジャータカ物語のようなエピソード、唯識の論理的な展開、各教団における戒律の扱い方等を別にすれば、親鸞聖人をはじめ多くの宗派や教団に、この核心部分は継承されています。JIPPOの諸事業もプロジェクトも、この仏法の核心を基礎にすべきだと思います。上記のスローガンは、関係主義の立場から「人間」を「人の間」と読みかえる試みから出発しています。
 存在論的な理論を追究すれば、人と人の間だけではなく、人と生物、人と事物、生物相互の関係、事物相互の関係も存在に先立ちます。しかし、なによりもまず人と人との関係から取り組むべきでしょう。
 この立場に立てば、信心もまた個々人の営みではなく、仲間作りや、共同的な活動の一環であろう、と思います。しかしながら、現代日本社会では、圧倒的に個人主義の力が強く、東日本大震災の被災地においても、「心のケア」でさえ、個人主義的に行われがちです。個人の営為ではなく、もっともっとネットワークづくりに力を入れるべきだと思います。
 元来「人間」の語源は、マヌ―シャ(インド古典語)の漢語訳であるといわれています。中国では、「世の中、人の世」の意に用いられています。現代日本語では「人」の意が主流になっています。サンスクリット語では、マヌ―シャが「人」の意にも使われるので、語義が里帰りしたとも言えましょう。長い道程を経て、現代日本語の「人間」が、インド諸語の「人」と中国語の「世の中」を統合する表現力を獲得しているので、今こそ「人と人の間の充足」に向かう運動を展開すべきでしょう。
 具体的な実践活動は、議論を積み重ねるべきでしょうが、例示すれば次のようなものが考えられます。
1、東日本大震災の復興事業を分担するネットワーク作り。
2、野宿者(ホームレス)のような社会的弱者と仲間づきあいをする。
3、外国人労働者やその子供たちの日本語学習を手伝う集団を組織する。
4、旧植民地出身者とその社会組織と積極的に交流する。
5、出自、学歴、職業、性別、所得などによる差別解消運動に参加する。